『日本語で読みたい韓国の本-おすすめ50選』第6号(2017年発行)より

著名作家・黄晳暎の自叙伝的記録である。自身が体験した個人の歴史だけでなく、韓半島を取り巻く滔々たる歴史の流れが背景にあり、それに巻き込まれる何人もの人間群像が身近に登場してくる。そのなかで作家は絶えず大きな苦悶と決断を強いられる。人間が自分の生き方(行動)を選択
することは、それほどの重みを持つものなのだ。その結果、著者はなんどか収監されることになるが、それは現存する「法」に抵触したからであり、他方、この息苦しい社会を象徴する意味を持つものでもある。

作家生活を開始して以来、黄晳暎は『張吉山』など大衆的なヒットした作品を残しているが、他方、この社会の苛酷な現実を鋭く描き出す作家でもあった。彼は行動する人間として、労働現場、ベトナム、光州民衆抗争、北朝鮮訪問などにも敢えて飛び込み、現場の空気を人々に伝えようと努めてきた。権力側はそんな彼を犯罪人、つまり「囚人」に仕立てたのだが、本書はその「囚人」の
側から、それぞれの現場報道にかかわる知られざる真実を、自叙伝形式で描き出したノンフィクション作品である。本書がカバーする時期と範囲は、目次のとおり。

〔上巻〕プロローグ/出行(1985 − 86)監獄1/訪北(1986-89)監獄2/亡命(1989-93)
監獄3/流年(1947-56)監獄4

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