「新しい韓国文学シリーズ」第1作としてお届けするのは、韓国で最も権威ある文学賞といわれている李箱(イ・サン)文学賞を受賞した女性作家、ハン・ガンの『菜食主義者』。韓国国内では、「これまでハン・ガンが一貫して描いてきた欲望、死、存在論などの問題が、この作品に凝縮され、見事に開花した」と高い評価を得た、ハン・ガンの代表作です。

 ごく平凡な女だったはずの妻・ヨンヘが、ある日突然、肉食を拒否し、日に日にやせ細っていく姿を見つめる夫(「菜食主義者」)、妻の妹・ヨンヘを芸術的・性的対象として狂おしいほど求め、あるイメージの虜となってゆく姉の夫(「蒙古斑」)、変わり果てた妹、家を去った夫、幼い息子……脆くも崩れ始めた日常の中で、もがきながら進もうとする姉・インへ(「木の花火」)―
 3人の目を通して語られる連作小説集。

「菜食主義者」が選定図書に!

●韓国の「いま」がわかる 「新しい韓国の文学」シリーズ

 韓国ドラマや韓国映画の流行で、韓国の人々の考え方やその生活のようすなどが日本でも広く知られるようになりました。
 ドラマや映画で韓国に興味をもった皆さんに、次におすすめしたいもう一つのジャンルが、「韓国の文学」。映像で表現されるドラマや映画と違い、小説やエッセイなどの形でつづられる主人公の心情や現代韓国の時代背景などは、とても味わい深く、韓国・韓国人への理解をより一層深めます。同時に、異国でありながら現代日本と驚くほど似ている部分、よく似ているように見えてまったく異なる部分なども、小説を通して感じていただけると思います。

 株式会社クオンでは、「新しい韓国の文学」というシリーズを立ち上げ、いま、韓国でよく読まれている小説の中から、文学的にも高い評価を得ている作品を厳選し、日本の読者に紹介していくプロジェクトを始めます。
 小説・詩・エッセイなど、2000年代に入って注目を浴びている実力派の現代作家の作品を、定期的に紹介していく予定です。
 ぜひ、韓国文学の豊饒な世界を通して、隣国・韓国の「いま」を感じ、味わってください。

●著者プロフィール : ハン・ガン(韓江)

 1970年韓国・光州生まれ。
 延世大学国文学科を卒業。
 1993年季刊「文学と社会」に詩が、翌年ソウル新聞の新春文芸に短編小説「赤い碇」が当選し文壇にデビューした。
 現在、ソウル芸術大学の文芸創作科教授。
 本作『菜食主義者』で、韓国で最も権威ある文学賞、李箱文学賞を受賞。その他の作品に、短編集『麗水の愛』『私の女の実』、長編小説『黒い鹿』『あなたの冷たい手』『風が吹いている、行け』、散文集に『そっと静かに歌う歌』『愛と、愛を取りまくもの』などがある。
 小説のほかに、絵本『雷小僧、天女稲妻、小僧天女』、大人のための童話『涙の箱』『わたしの名前は太陽花』などがあり、童話の翻訳も多数手がけている。韓国小説文学賞、今日の若い芸術家賞、東里文学賞など受賞多数。

●訳者プロフィール : きむ ふな

 韓国生まれ。
 韓国の誠信女子大学、同大学院を卒業し、専修大学日本文学科で博士号を取得。現在は日韓の文学作品の紹介と翻訳に携わっている。
 翻訳書に、津島佑子・申京淑の往復書簡『山のある家、井戸のある家』(集英社)、孔枝泳『愛のあとにくるもの』(幻冬舎)、 李垠『 美術館の鼠』(講談社)、『いまは静かな時‐韓国現代文学選集』(共訳、トランスビュー)など。韓国語訳書に津島佑子『笑いオオカミ』(第1回板雨翻訳賞)など、著書に『在日朝鮮人女性文学論』(作品社)がある。

●アートディレクションは寄藤文平氏

 「新しい韓国の文学」シリーズのアートディレクションは、「大人たばこ養成講座」「地震イツモノート」「ウンココロ」などの書籍や、東京メトロの「家でやろう」広告シリーズなどで知られる寄藤文平氏。
 カバーイラストは、一作ごとに作品イメージに合わせて描きおろしされます。美しく質感のある造本にもぜひご注目ください。