|チョン・ファシン著|書肆侃侃房 刊|2022年4月1日|224ページ|



目と口と耳があれば生きてゆける。


日本語は一言もしゃべれず、書くこともままならなかった娘チョン・ファシンは日本で働く朝鮮の青年と結婚し、15歳で日本に渡る。80年に及ぶ日本での過酷な日々を、いつも明るく逞しく不撓不屈の精神で生き抜いた1人の朝鮮人女性の生涯を描いた感動の物語。


長い髪をきりりと結んだ利発そうな若い女性が深々と頭を下げた。

母は若い教師の手を握りながら、嬉し涙をあふれさせる。目の前にいる女性こそ、自分の夢、

教育を受け教師になりたかった自分の姿だと。

母の涙を眺めながら、母が今の時代に生まれていたら、と夢想した。両親や夫への反骨心だけが日本に渡った母を支え、ここまでやってこられたことを思うと、人生にとって何が大事なのかは、人それぞれの気がした。