ユン・フミョン著|東峰直子訳|2022年4月30日刊行|148ページ(韓国語原文含む)


歴史に翻弄された同胞たちが発する祖国のことばが、私を揺るがす。
「アンニョンハシムニカ! これはわたしたち民族の言葉です!」


飢餓や植民地化した故国の圧迫から逃れるように、ロシア領へ流入した数多くの朝鮮人たち。
民族と歴史、強制移住と苦難・・・・・・。
ユン・フミョンが1990年代にカザフスタンをたびたび訪れて現地の同胞(高麗人)に会い、彼らの話に深く揺さぶられた経験をもとに執筆した李箱文学賞受賞作を、原文と訳文両方で味わうことができる一冊。
(原題「하얀 배」)

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「かつて韓半島では日本語、中央アジアではロシア語が強制された。故国は母国語を取り戻したけれど、中央アジアの高麗語は今や消え去ろうとしている。民族と言語の葛藤は続く。少年は、ヒナゲシの咲く野原で「アンニョンハシムニカ!」と叫ぶ。「アンニョン」の漢字表記は「安寧」。もとは「安寧ですか、ご無事ですか」という意味だ。あなたは、民族は、言語は、ご無事ですか(アンニョンハシムニカ)、と少年は問う。
世界で民族と言語、アイデンティティの関係がますます複雑化している今、少年の故国、さらに東方の島国に生きる者たちにも、その問いは投げかけられているのではないだろうか」
――訳者解説より

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著者:ユン・フミョン(尹厚明)
1946 年江原道江陵生まれ。延世大学哲学科卒業。
1967 年京郷新聞の新春文芸に詩「氷河の鳥」が当選、詩人デビュー。
1979 年韓国日報の新春文芸に短編小説「山役」が当選。
本作「白い船」で1995 年に李箱文学賞を受賞したほか、緑園文学賞、小説文学作品賞、現代文学賞などを受賞。
代表作に短編集『敦煌の愛』、『鳥の声を聞く』、長編小説『狭軌列車』、『三国遺事を読むホテル』、散文集『花』など。
2016 年にユン・フミョン小説全集全12 巻が刊行された。
邦訳に「狐狩り」(三枝壽勝訳『現代韓国短篇選 上』収、岩波書店)、
「墓づくり」(吉田美智子訳『韓国の現代文学 第5 巻 短編小説』収、柏書房)がある。

訳者:東峰直子(ひがしみね なおこ)
和歌山県和歌山市生まれ。
早稲田大学教育学部卒業。
2004 年より韓国語を学び、ハングル能力検定1 級取得。
2010 年より韓国語講師、「みかわ韓国語ひろば」を開設。
2020 年よりチェッコリ翻訳スクールで翻訳を学ぶ。
第5 回「日本語で読みたい韓国の本 翻訳コンクール」にて本作「白い船」で最優秀賞受賞。