|한강(ハン・ガン)著|문학동네 刊|2021.9|332ページ|

2018年に刊行された『すべての、白いものたちの』以来となるハン・ガンの新作長編小説。
小説家である話者とその友人インソンを通じて、3万人を超える島民が犠牲となった「済州島四・三事件」(1948年)の痛みを描いた作品である。

インソンは母親から聞いた「四・三事件」当時のこと、そして「四・三事件」以降を生き抜いた痛ましい記憶について語る。また、インソンはドキュメンタリー映画を制作しており、彼女の作品には植民地時代に満州で独立運動をしていた女性、ベトナム戦争で韓国軍から被害を受けた現地の女性も登場する。一方、小説家はこれまでに朝鮮戦争、光州民主化抗争をテーマにした作品を描いてきたことも窺える。

ただ、歴史に翻弄された女性たちの証言集だと簡単に決めつけることはできない。もちろん歴史的な出来事を扱っているが、ほかにも様々なレイヤーが重なり合っている。またハン・ガン独特の、明澄でありながら骨の髄まで染みこむ悲しみを描く文体が、小説の最後まで張り詰めた緊張感を生み出している。ハン・ガンが光州民主化抗争を描いた『少年が来る』に続き、歴史の現場で命を落とした人々のための悲しい鎮魂曲であると言える。命を落とした彼らから私たちへ、あなたはどう考えるのかと問いかけられているような、静かな力を秘めている。

著者あとがきには2014年6月からこの作品を書き始めたと書かれており、完成まで7年もの時が費やされている。それだけの時間が必要だったことも理解できる。読者として、何度もじっくり読み、作者の問いかけをしっかりと受け止めたいと思わずにいられない。
日本でも、小説好きの読者たちにとって大きな大きなプレゼントになると思う。

※ 時期により改訂版カバーになる可能性があります。